2017年振り返りと2018年予想
今年個人的に心に残ったテーマと、来年盛り上がりそうなテーマをつらつら書きます。
「2017年予想」の振り返り
昨年「TechReport 2016.12」での2017年予想をふりかえってみます。
1. 「サーバーレスアーキテクチャ」の躍進
黎明期から流行期にシフトしつつあり、間違いなく普及が進んでいます。
具体的なテスト手法や CI など開発に関する事例も増えてきています。「一つのシステムを DSLで定義し、そこに含まれる複数の FaaS を一括管理」という予想は、2016年末の AWS Step Functions に続いて Azure Durable Functions や IBM Composer など様々な形で登場しました。
フルマネージドなコンポーネントについても、Azure の DocumentDB あらため CosmosDBや、AWS の Amazon Aurora Serverless など、データストアを中心にサービス側の拡充が進んでいます。
2. コグニティブと Bot
この分野では、抽選枠を取り合っている Amazon Echo や、半額セールで話題になったGoogle Home などのスマートスピーカー分野が一気に注目を浴びたことで、その背後にある技術領域として普及の芽が出ています。私自身も Amazon Echo と Google Home mini両方試していていますが、「ちょっとした便利」の積み重ねがなかなか良いです。
3. IoT とセキュリティ
各クラウドベンダから IoT 機器や IoT ゲートウェイに対するデバイス管理 SDK が登場したり、IoT デバイスに対してリーチャビリティとセットで識別/認証機能を提供する SORACOM がKDDI に買収されるなど、IoT とセキュリティにまつわる戦場は隣接領域を巻き込みながら拡がっています。
なかでも「できる人が居たから」感もありますが、AWS が RTOS ベースのディストリビューションまで踏み込んだのは面白い動きだと思います。
4. 新たなる「ラストワンマイル」競争
SORACOM が KDDI に買収されたほかは、特に大きな動きはなかった分野でした。とはいいつつ、5G フィールドトライアルなど、地道に研究開発が進んでいる分野です。SORACOM のSigfox 対応や、LoRaWAN による「全国サービス」を展開しようとするセンスウェイなど、普及期に向けた動きは見えつつあります。
5. エッジコンピューティング
AWS Greengras や Azure IoT Edge SDK など環境は揃ってきています。PoC レベルの事例は増えてきているため、来年持ち越しという感じでしょうか。
6. FinTech
まさかここまで仮想通貨が盛り上がるというかバブルになるとは思っていなかったのが正直なところです。その一方で、本丸である金融機関の API 化は、規格化など地道に進んでいますがまだまだ道半ばといったところでしょうか。
7. ユーザーインターフェースの拡張
淡々と VR がコンテンツを増やす一年でした。やはりエロは大事ですね。年末には VR 男優の特殊技能に関する記事が注目を集めました。
ウェアラブル分野では、Apple Watch 3がついに単独でセルラー通信に対応したのが一番大きな動きです。この裏には組み込み型の eSIM など様々な技術革新が存在しています。eSIMはいいぞ。
8. Docker のコモディティ化
世の中全て Docker どころか、そのオーケストレーションも Kubernetes でまとまりつつあります。
9. セキュリティ教育
私自身も SecHack365で関わっている NICT(情報通信研究機構)のナショナルサイバートレーニングセンターの発足など国を挙げてのセキュリティ人材育成が進んでいます。
10. おまけ
3月に無事本編完結した「本好きの下剋上」、なんと『このライトノベルがすごい!2018』単行本部門で1位でした。
ボイスUI(VUI)の躍進
OS に紐付きであった Apple Siri や Windows の Cortana から時計の針が一つ進み、Amazon Echo や Google Home、LINE Clova などスマートスピーカーとしてのデバイスが登場しました。2016年ぐらいから拡充が進んでいたコグニティブ分野の成長との相乗効果もあり、ボイス UIが一気に花開きつつあります。
すでにプログラマブルになっていると言うこともあり、来年はその活用が進むと思いますが、その中でも「日常のちょっとした便利さの積み重ね」というのは潜在的な大きな魅力を秘めています。このようなデバイスで一番重要なことは「気づいたときには無いと困る状況」をいかに作り出すかですが、例えば料理中の音声メモなど、スマートスピーカーはそういった領域が得意に見えます。
ボイスチャットなどからスマートホームなどのボイス UI に「侵入」するという課題も明らかとなっていますが、これには「音声による識別」がまだまだ不十分という背景があります。風邪を引いて声が変わるなど、他の生体識別技術と比べても難しい技術分野ではありますが、重要な操作にはスマートフォンとの2FA を要求するなどのリスクベースの判断など、そういったセキュリティ上の考慮事項に関するガイドライン化が進むのでは無いかと考えています。
ボイス UI に引っ張られる形で、いわゆる IoT 家電として少しずつ製品が増えているスマートライトなどに注目が当たっているのもなかなか面白いところです。この辺は、2018年から既存の IoT 家電スタートアップの買収劇が大いに進んでいくものと見ています。
PKIの抱える課題が顕在化
由緒正しい Verisign の流れを汲んでいた Symantec が、そのサーバ証明書事業を DigiCert に売却することになりました(2017年10月に買収完了)。これはブラウザベンダーとしての Google とSymantec との争いが背景となっています。
Google は、以前より Certificate Transparency(CT)という枠組みを構築し全てのサーバ証明書に対して CT への対応を求めています。CT は証明書の誤発行や偽造を防ぐために、CA が証明書を発行するときに同時に CT にそれを登録する監査の仕組みで、RFC6962としても標準化もされています。ブラウザは、HTTPS 等で通信するときに CT の監査ログを確認することで正しい証明書であることを確認します。この仕組みは、例えば Google Chrome であれば2015年1月より段階的に導入され、2016年6月のリリースからは CT に登録されていない証明書で警告が表示されるようになっています。
ここには二つの課題があります。一つは、あの Verisign を買収した Symantec ですらも、Googleの求める基準を達成することができていないということです。常時 TLS 化が進んだ結果、利用そのものが増えていることもその背景にあるかとは思います。
もう一つは、証明書という PKI の根幹に対して、ブラウザベンダーにすぎない Google の「力」が巨大になっているということです。DNS の信頼性が揺らぎ、証明書に通信の安全性を依存している現状において、証明書の偽造リスクは決して無視できず Google の圧力にも理はあります。その一方で、Symantec に対する「サーバ証明書の信頼を無効化」という強すぎるカードなど、PKI そのものに対する Google の支配力が高まっているのも事実です。綺麗な王様であるうちは良いのかも知れませんが、インターネットの信頼モデルの根幹を Google に握られつつある、という現状は知られるべきでしょう。
その一方で、Let’s Encrypt やクラウドベンダによる無料証明書によって、とにかく DV(ドメイン認証)でよければ手軽に(たとえ悪意を持つものであっても)HTTPS による暗号化ができるようになった現状は、マルウェアの被害拡大なども経て2018年以後より議論が深まっていくことでしょう。
Windows Subsystem for Linus
WSL は良いぞ。
Linux(Ubuntu)の amd64バイナリがそのまま動く WSL は、まずは開発者向けリリースとして提供されている段階ですが、大きな可能性を持っています。実際に試した人はご存知だと思いますが、ターミナルが(昔に比べれば雲泥の差で頑張っているとはいえ)ショボい事を除けば、一般的なユーザアプリケーションはそのまま動くようになってきています。ターミナルも、代替のものが OSS でリリースされています。
Windows の世界観との繋ぎ込みはまだまだ道半ばですが、UNIX というか Linux っぽい作業環境のために Mac を使っているような人は一度試して見ると良いかも知れません69。とくにビルド環境としては Ubuntu/amd64のバイナリを、クロスコンパイルではなく普通に作って動かす事ができます。是非はともかく、世の中大半の環境で Linux がポータブルなバイナリになりつつある現状ではかなり大きなメリットです。
2018年にもおそらく2回の大きなアップデートが Windows に来ると思われますが、Linux 開発環境としての進歩が楽しみなところです。
GPUコンピューティング
いままさに NVIDIA の EULA 変更による議論が真っ盛りですが、それはさておき、2017年から2018年にかけて GPU がより一般化が一段階進むタイミングと見ています。特に根拠はありませんが、おそらく向こう2年くらい続くであろう機械学習のカジュアル化の波に乗って、GPU コンピューティングでモノが書ける人が増加し、それを活用した事例が出てくるような気がしています。
最終的にはクラウドベンダによりサービスに消化された機能を利用するようになっていくでしょうが、そうなってもやはり「中身を知っていることは強い」ので、そういった技術者の取り合いが過熱していくことでしょう。
また、末端でのデータ集約などのエッジコンピューティングの領域でも利用が広まり、AWS やAzure が提供しているエッジ側の FaaS と相まって、一つの技術領域として確立していくのではと予想しています。
NGNの課題とIPv6の普及?
現状の NGN における PPPoE 収容先の限界によって IPv6 IPoE 接続が急速に知られる70ようになるなんて理由で IPv6の普及が進むなんてことになるとは正直思っていませんでした。
様々な歴史的経緯によってたまたま既存の IPv4の通信が遅くなっているだけの話なのですが、既にPPPoE 収容方式の改善案などは見えてきているため、2018年にはある程度改善されるのでは無いかと考えられます。
量子コンピュータ
IBM Q に続いて Azure などから使えるおもちゃが出てきたので、来年は「触ってみた」系の記事がたくさん出てくるものと思います。というか正直この本で扱う予定だったのですが落としました。